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他者を優先する意外な利点

更新日:2022年7月28日




ダライラマ師が、胆のうの手術を受けた際、手術を担当医師が、「聖下のご年齢は70代ですが、二十(はたち)の心臓をお持ちですね」と言ったそうです。それに対しダライラマ師は、ご自身の心臓年齢が若い理由は、彼の利他主義と慈悲の実践の結果だと言われました。


日本は、世界で一番の長寿国ですが、今まで多くの人々が、その理由について様々な推測をしています。私はその理由が、日本人が概して他者を優先する生来の利他主義者であるからだと確信しています。先日NHKワールドの『ドキュメント72時間』を見ました。奄美群島のひとつ、加計呂麻島と奄美大島間を結ぶ水上バスを仕事や買い物のために利用している加計呂麻島民に関するドキュメンタリです。撮影クルーが、水上バスの待合所で座っている仕事帰りの男性に声を掛け、なぜもっと早い便に乗って帰らないのかと尋ねました。するとその男性は、水上バスの運転手である80代の男性が最終便の運航後に船を停泊させる手伝いをして、無事に家まで帰るのを見届けるために最終便に乗って帰るのだと答えました。この男性は、この80代の男性のためにこれを10年間続けているのです。その男性は、当然仕事帰りにはすぐに家に帰りたいが、お年寄りを助けることが大切なことだと感じているから続けていると話していました。これが、利他主義です。優しさであり、慈悲心です。私は、これこそが日本人が世界一長寿である理由だと思います。


もうひとつの例は、パメラ・ブルーム著の『Buddhist Acts of Compassion』という本にあるエッセイの中にあります。


「直近の日本へのスピリチュアル巡礼の際に、海の街、熱海でベランダから壮大な太平洋を望めるホテルに滞在しました。私のルームメイトのゆき子は日本人で、重病を克服した彼女の静かなる存在感と内なる強さは私の心を深く動かしました。最初の2晩は、あまりの疲れていたために、熱海の海に昇るあの伝説的な日の出を見たくても起きることができませんでした。しかし、最後の朝、私はどうしてもゆき子とその美しい景色を共有すると決めていました。水平線に赤いドームが見え始めたとき、私は裸足で寒いベランダに飛び出し、ゆき子にも外に出てくるように彼女を呼びました。刻々と東の空の「日の球」が、どんどんと高くなっていき、その色も大きさもそれはとても素晴らしいのです。しかし、ゆき子はなかなかベランダに出てきません。私は次第に、彼女が日の出を見逃していることにいら立ちすら感じ始めました。ゆき子はどこに行っちゃったの?すると、その数秒後、私の背後からスリッパと半纏(はんてん)を抱えたゆき子が少し恥ずかしそうに外に出てきました。私は完全に心を打たれました。私が日の出のことだけを考えていた時、彼女が考えていたのは、私の快適さだったのです。」


ハレイワ・シンゴン・ミッション(弘昭寺)の秋山住職は、日本人の素晴らしい気質の一つは、謙虚さであるとおっしゃいました。住職の言うこの「謙虚さ」とは、他者を優先する能力のことです。住職曰く、謙虚な人は、他者に尊敬されるために自分を良く見せるために頑張る必要がありません。そのような人は、良い仕事やサービスで他者が幸せになることにフォーカスしています。秋山住職は、90歳を過ぎたご高齢ですが、私のハワイアンチャントよりも力強いお経を上げることができます。彼は、ご自身がこれほどまでに長生きするとは思っていなかったそうですが、誰がお寺を訪ねてくることをいつも楽しみにしていらっしゃいます。住職はまた、お寺は人々のために存在していると仰いました。お寺とは、人々が訪れることで人生の厳しさを多少なりとも手放せる場所である、と。秋山住職は、「よう、お参り」を推進されています。大きな笑顔で、あなたが出会った人にに心を開いて「よう、お参り!」というのです。「よう、お参り」とは、「ようこそ、いらっしゃいました。あなたの成就と成功を祈ります。あなたの願いや祈りが叶いますように。お大師(弘法大師)様は常にあなたの傍にいてくださいます。」という意味です。


私たちが、ダライラマ師、加計呂麻島の男性、ゆき子さん、そして秋山住職を尊敬しているのは、彼らの行動によるものです。彼らは、尊敬をされたいと思って行動しているわけではなく、彼らの心が彼らにそう行動させているのです。これこそが、日本人が長寿である理由の一つであると、私は確信しています。同様の良い心を、長寿のためだけでなく幸せに生きるためにも、私も自分自身も養えるように願っています。



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